「朝のこと?」


私はつい手に持っていた鞄を藤くんに向けて振り回した。


「うそ、うそだって。ごめんごめん。そんなムキにならなくても」


といいつつ軽やかにかわすところが腹立つポイントだ。


結局一回も当たらず断念する。


私と違って汗ひとつかいてない藤くんはスッと私の目の前に立って妖しい笑みを浮かべた。


「なんでそんなに私に構うの? だろ?」


ズバリと言い当てられて私は目を見開いた。


さっき思ったことを訂正する。


藤くんは全然分からない。


ふざけてるようでいきなり鋭くなったりする。


「まあ、なんでだろうな」


「またそうやってとぼける」


思わず眉間にシワが寄る。


「とぼけてないって。本当になんでか分かんない。でもゆなが気になる。たぶん俺とーーいや、なんでもねぇ」


そう言いかけて藤くんはスタスタと前を歩いていく。


「なにそれ。変なの」


私は背中を追いかけながら藤くんに聞こえるか聞こえないくらいの声量でつぶやいた。


「俺は変だよ」


やっぱ聞こえてたか。


「でもゆなも変だろ?」


「なんで」


「女子高校生はふつう群れるのにゆなはいつも一匹狼じゃん」


「言い方悪い」


「そう? まあ俺ら同じだってことだな」


一緒にされたくはない。


というか私と藤くんじゃ全然立場が違う。