「なにしてるの?」
教室の入り口で顔をのぞかせる藤くんを睨みつける。
「ばれた? まさかゆながこんな時間にいるなんてね」
「こっちのセリフ」
藤くんは観念したのか出てくる。
「いやいや。俺毎日この時間に来るし」
「一人で? 嘘。友達たくさんいるんだから一緒に来てるんでしょ」
「……ゆなと違って?」
かちんと来た。
毒舌というか、はっきり言う性格らしい。
殴ろうと振り上げた手を引っ込めて私はしぶしぶ頷いた。
「ごめんごめん。あんまり朝のとき家にいたくないんだ」
「なんで?」
私が聞くと、藤くんは返答に困っているのか、黙ってしまった。
いつも喋ってるから、なんだか珍しかった。
私にとっては静かにしてくれた方がありがたいことだけど。
「……あっ。なんで? は俺が言いたいね。なんで昨日逃げたの? しかも大っ嫌いとか……俺心折れそうだわ〜」
藤くんはあからさまに話を逸らした。
よっぽど聞かれたくなかったんだろうか。
少し気になったけど詮索するのはやめた。
「嫌いは嫌い。逃げるのは変なこと言ってくるからじゃん。きもいし」
代わりに私もはっきり言ってやった。
「ん、俺何言ったっけ?」
「はぁっ!?」
私は大声を出して立ち上がった。
あんなこと言っといて忘れてるフリ?
しかもその企みのある笑顔、ほんとウザい。
「何言ったっけ。教えて?」
「なんで」
「思い出したいから」
「ならいい。言わない。言いたくもない」
……また変な気持ちになるから。
私は腰を下ろして視線を逸らした。
「ふぅん。言ってくれないと今日ずっと話しかけるよ? そばにうろついてやる」
「きも。ストーカー?」
でも藤くんならやりかねない。
「そうとも言うかな」
藤くんは私の机に勝手に座ってくる。


