藤くんはいつもわらってる



お父さんの方には食後のコーヒーだ。


わりと我が家はおしゃれな朝を迎える。


ちなみに私とお母さんは食後には紅茶。種類はダージリン。


白いテーブルクロスのおかげでさらに上品に見えてくる。


「私も食べちゃっていい?」


「うん。支度できるから、ゆっくり食べて。これ飲んだらすぐ会社に向かうから」


「ありがと。お弁当は鞄の横に置いてあるから」


両親の会話を聞きながらきんぴらごぼうを口にいれる。


冷たくなってるけど、味が濃くなっていてこれもこれで美味しい。


黙々と食べてると、お父さんは飲み終えたコーヒーをキッチンの流し台に置いてリビングを出て行った。


もうスーツを着ていたからいつものように玄関に用意されたカバンとお弁当を持って会社にいくんだろう。


「行ってきます」


かすかに扉の閉まる音がした。


いつもは起きたらもうお父さんがいないことが多かったから、ちょっと嬉しかった。


「ゆな」


「んー?」


「体操服あとでたたむからまっててね」


「いや、大丈夫。私がやるよ」


そう、と言ってお母さんは笑う。


「なんかいいことあった?」


「えっ?」


お母さんは頬杖をついて、少し上体を前に倒す。


「顔。ニヤニヤしてる」


「うそ。ほんとう?」


顔を触って確認する。


だめだ。鏡見なければ分からない。


「ん〜。あれかなぁ。久しぶりにお父さんを朝から見れたからかな」


「違う違う。昨日、なにかあったでしょう? 告白でもされた?」




つい、箸で掴んでいた残りのきんぴらごぼうをテーブルに落としてしまった。




ーーしまった。




慌てて落としたごぼうを拾う。




ーーそうだった。




お母さんは、けっこう鋭い人だった。