夕方。

陽和は駅に向かって
足早に歩いていた。

恋をするって
こういうことなのか・・・
陽和は嫌というほど
そう思い知らされていた。

 1秒でも・・・
 早く会いたい・・。


「あ,陽和!」
「ひよりせんせい!」

朔とその上に
肩車された由宇が
陽和に向かって手を振る。

陽和はクスリと笑って
二人に駆け寄った。

「おまたせしました。」

「いいえ。」

朔はにっこり笑った。

陽和は朔の隣に位置取り
3人はゆっくりと歩き出した。

「・・・本当は
 早く陽和が来ないかなって
 思ってました。

 ・・・早く会いたいなって。」

朔は照れ臭そうに
下を向きながらそうつぶやいた。

「・・・朔ちゃん・・。」

真っ赤になる二人を見て
由宇はにこにこしていた。


「さ・・・さて・・
 何・・食べますか?」

「うーん,何が
 いいですかねえ?」

「僕,スパゲティ食べたい。」

「そうだなあ,
 じゃあパスタにする?
 陽和はそれでいい?」

「うん。」

陽和は満面の笑みで
朔と由宇を見つめた。



最近は,外食はめったに
しない朔だったが,
学生の頃によく行っていた
店に行ってみることにした。

「わー,かわいい。」

レンガ造りのお店は
ちょっとした雑貨屋さんの
ような雰囲気だった。

「デートっぽい店って
 他に知らなくて・・・。」

そういって笑う朔を
見上げて陽和は微笑んだ。


店内もかわいらしい雰囲気で
由宇は嬉しそうにメニューを
眺めていた。

「朔ちゃんがこんなお店に
 来てたなんて意外。」

「あ・・うん・・
 いや,公ちゃんたちがさ,
 よくデートに使ってたから。」

「あ,なるほど。」

「俺もいつか『彼女』と
 来てみたいと・・・
 ずっと思ってたから・・。」

そういわれて陽和の顔は
パッと赤らんだ。

「か・・・彼女・・・。」

「あ・・・あ・・うん。
 ・・・俺の・・・
 彼女だよな・・・?
 陽和・・。」

「・・・。」

陽和は真っ赤な顔をして
コクリと頷いた。

「ホント・・・
 夢みたいだな・・・。

 最初に連れてきた女性が
 ・・・陽和だなんて。」

朔は照れながらそう言った。

「・・・朔ちゃん。」

「・・・タイムマシンが
 あったら・・・
 学生の頃の俺に・・・
 伝えてやりたいな。

 陽和と一緒に来ることに
 なるから・・・

 飛び切り楽しみに
 しとけって・・・。」

「も・・・もう・・・。」

陽和は頬を抑えながら
朔のほうを見遣った。

「僕,ミートソースにする。」

「オッケー。
 陽和はどうする?」

「あ・・・えっと
 私は・・・・

 クリームソースにしようかな。」



朔は不思議な気持ちでいた。

陽和といると・・・
うれしくて・・ドキドキして・・

だけど・・・
この間のファミレスのときも
そうだったが・・

陽和と一緒だと
どこか自然体でいられる。

幼いころから
知っているからなのか・・。

ずっと好きだったから・・
なのか・・・?



お互いのことを知らなかった
時間も長かったのに
どうしてこんな風な
気持ちになれるのか・・・

朔は目の前にいる陽和を
見つめながら考え込んでいた。

おいしそうに食べる由宇を
にこにこと微笑みながら
見ている陽和。

朔は何とも言えない
幸せな気持ちを感じていた。