”ひーちゃん,元気?”

美咲からメールが来た。

日曜日の朝。
陽和はこの間,
中村先生と一緒にいった
カフェに朝ご飯を食べに来ていた。

「あ,美咲ちゃんだ。」

美咲とは,小・中・高と一緒で,
中学から高校のときは
部活も一緒だったので
陽和にとっては
未だ連絡を取り合う
数少ない友人だった。

”うん!今月はどうする?”

就職してからは
しょっちゅうというわけには
いかなかったけれど,
月に1回は食事に行っている。

”あのさ,実は
 ある人から誘いを受けてるんだけど。”

”え?誰?”

”詳しくは会って話したいんだけど
 今日暇?”

”うん”

陽和は今いる場所を送ると
美咲は20分もしないうちに
やってきた。

「ひーちゃん!」

「あ,美咲ちゃん。」

陽和が手を振ると
美咲は駆け寄ってきた。




小学校の時から
人目を惹く美少女だった美咲は,
そのまま美しい女性になっていた。

「おまたせ!」

隣町のデパートで働いている美咲は
学生のころよりもさらに
垢ぬけて,すっかり
大人の女性となっていた。

美咲はカフェオレを頼み,
陽和も,コーヒーをもう一杯
頼んだ。

「実はさあ,公ちゃんが
 陽和に会いたいって。」

「え?公ちゃん?
 うん,いいけど・・・。
 どうして・・?」

公ちゃんとは確かに
1年くらい会っていないが
どうして突然?

「え?もしかして,
 佑里香ちゃんと結婚するの?」

「え?あ,いや,
 そうじゃなくて。」

陽和はきっとそうだと思って
いったのに,美咲は
驚いた顔で否定した。

「なんか,私も事情は
 よくわからないんだけど・・・。

 公ちゃんのところに,
 ある人から連絡があって,
 陽和に会いたいって。」

「え?・・・・それって・・。」

そういわれて,陽和は
なんとなくだれか分かった。

「驚かないでよ・・
 
 朔ちゃんよ,朔ちゃん。」

「あ・・・・うん・・・。」

陽和は赤い顔をして
うなずいた。

「何?あんまり
 驚かないってことは・・・

 ひーちゃんは,事情は
 わかってるってことね?」

「え・・・あ・・・
 うーん・・・。」

陽和は苦笑いした。



「実は・・・。」

陽和は,これまでのことを
美咲に話した。

 実は,4月になる前に,
 朔が百戸高校の教員で
 あることを知っていたこと。

 4月に自分が転勤になり,
 朔が勤務先の保育園の
 保護者だったこと。

 息子かと思っていたのは
 甥っ子で,事情があって
 朔が育てていること。

そして・・・

「でも・・・朔ちゃん・・
 話しかけてくれなくなって。

 1か月近く・・・。」

「ふーん・・・。
 うーん・・・。」

でもそれから,
由宇のけががあって
メモで食事に誘われたことを
美咲に話した。

「そっかあ。
 なるほどね。
 そういうことか。」

「・・う・・うん。」

陽和はちょっと顔を
赤らめながらそういった。

「うーん・・・
 わかんないけどさあ・・
 1か月も朔ちゃんが
 話しかけなかったのは
 わけが・・・ありそうね。」

「え・・・うーん・・・。」

「でもまあ,あらためて
 食事に誘ってきたわけだし。」

「あ・・・うん・・・。」

「で?」

美咲は陽和の眼を
じっとみつめて,そう聞いた

「え?」

「ひーちゃんの気持ちは
 どうなのよ?」

「え?気持ち・・・?」

「うん。だって。
 朔ちゃんは食事に誘ったって
 ことは,
 ひーちゃんに気があるって
 ことでしょう?」

「え?ち・・違うって!
 この間のお礼って言ってたし。
 それに,懐かしくて
 久々ということ・・では・・・?」

「・・あのねえ・・ひーちゃん。」

美咲は呆れた顔で陽和を見つめた。

「え・・・?」

「ただそれだけなら,
 堂々とひーちゃんに
 聞くでしょうよ?

 そうじゃなくて・・・
 ・・だから・・・
 こんな遠回しに,
 誘うんじゃないの?」

「え~・・・そうかなあ・・。」

陽和は困惑していた。
朔の気持ちは・・・正直
わからない。
もしかしたらっていう思いが
ないわけじゃない。

だけどその反面,
期待するのは怖い。

朔ほど,優しくてイケメンなら
彼女くらい居て当然だと
思うのだけれど・・・。

「ひーちゃんは,
 朔ちゃんに会ってみて
 どう思ったの?」

「え・・ど・・・どうって・・。」

陽和は顔が熱く熱くなるのを感じた。

「どうだった?
 子どものころと変わってた?」

美咲は懐かしそうな眼をした。
そういえば,美咲も
朔のことが好きだったのだ。

陽和はそのことを思い出していた。

あのとき,自分がきちんと
返事をできなかったことで
朔だけでなく間接的に
美咲を傷つけていたことを
思い出した。

美咲には・・・
美咲だけにはちゃんと
伝えないといけないような
気がした。

「朔ちゃんは・・・
 変わってないよ。

 昔は・・・・
 優しくて強くて・・・

 ずっと私の憧れの
 ヒーローだった・・・。」

「え・・・ひーちゃん・・・?」

「私ね・・・
 ずっと朔ちゃんのこと
 好きだったの・・・。」

「ひーちゃん・・・。」

美咲は少し驚いていた。

なんでもはっきり言う自分と
違って・・・
陽和は自分のことをほとんど
主張したことがない。

美咲はうすうす感じていたものの
ちゃんと自分の口で
朔のことが好きだったと
はっきりと陽和がいうのを
聞くことになるとは。

「だけど・・・
 今は・・よく・・・
 わからないの・・・。」

「わからない?」

「・・・うん。
 私・・・
 あのね・・・・。」

陽和は顔を真っ赤にして
つぶやいた。

「陽和ちゃん?」

「私・・・
 小学校のとき以来・・・
 恋愛・・・したことないの。

 だから・・・
 今,朔ちゃんのことが
 好きなのか・・・

 わからないの。」

「え?」

美咲は目を丸くしていた。

だけど・・・
陽和らしいなとちょっと思った。

「そっか・・・。

 だけど・・・
 ひーちゃんは,
 朔ちゃんに会った時に
 ドキドキした?」

そう聞かれた陽和は
うなずいた。

「朔ちゃんの話をすると
 顔が赤くなるよね・・・。」

美咲はクスクスとわらって
そういう。

陽和の顔はますます
赤くなる。

「わからないけどさ・・・
 それが大人の恋愛に
 つながるかどうかは
 わからないけど・・

 好きってことは
 間違いないんじゃないの?」

「・・・・・。」

陽和は首を傾げ
考え込んでいた。


「まあ,いいよ。
 とりあえず,会って
 話をしてみたら?

 きっと,頭で考えるより
 素直に・・・
 わかると思うから。」

「・・・うん。」

美咲はすぐに
公ちゃんに連絡した。

来週の土曜日。
ランチを食べに行こうと
いうことに決まった。