翌日は土曜日だった。

朔はある人の家を
久々に訪れていた。

「おう!朔ちゃん!
 久々だなあ。
 由宇ちゃんも。こんにちは。」

「こんにちは。」

それは,公ちゃんの住む
アパートだった。


公ちゃんは,地元である,
朔の勤務先のある地域から
3駅離れたところに住んでいた。

実は,朔と公ちゃんは
大学の時に再会していて,
学生時代はちょくちょく
遊んでいた。

公ちゃんは,
中学の頃は,何度も
陽和に告白して
玉砕していたが,
高校生になって,
告白された同級生と
付き合うようになった。

「いらっしゃい。」

それが,佑里香(ゆりか)。

大学時代からは
このアパートで同棲している。

佑里香と公ちゃんと朔は
学生時代によく一緒に
遊んでいた。




就職してからは
会うことも少なくなって
来ていたが・・・

朔は藁にもすがる思いで
公ちゃんの家を訪れていた。

「どうしたんだよ,突然。」





昨日の夜,朔は
公ちゃんに電話をかけていた。

「あのさあ,公ちゃん。
 相談したいことがあるんだけど
 明日家に行ってもいいか?」

「え,どうしたんだよ。
 突然。」

「まあ,・・
 詳細は明日行ってから。」






「はい,どうぞ。」

佑里香は朔にはコーヒー
由宇にはオレンジジュースを
出してくれた。

「ありがとうございます。」

由宇は行儀よくそう答えた。

「実は・・・。」

朔は切り出そうと思ったけれど
なんとなく,由宇にこのことを
聞かせていいのか気になった。

佑里香に目配せすると
佑里香は隣の部屋に由宇を
誘った。

「由宇くん,向こうの部屋で
 一緒にDVDでも見る?」

「うん。」

朔は佑里香にアイコンタクトで
礼を言った。



「で・・・?何?」

「ああ・・うん・・・
 実はさあ・・・
 陽和・・のことなんだけど。」

「え?ひーちゃん?」

「ああ・・実は・・。」

そういって,朔は
これまでの経緯を
公ちゃんに話した。

公ちゃんは驚きながらも
嬉しそうに話を聞いてくれた。

「そうかあ,ひーちゃんと
 朔ちゃん。
 再会してたのか。

 なんか・・・運命・・だなあ。」

「え?そ・・・そうかあ?」

「でもさ・・・・
 俺は,ちゃんと直接は
 聞いてないからわからないけど・・

 ひーちゃんは,当分朔ちゃんのこと
 引きずってたと・・おれは
 思うんだけど・・・。」

「え・・・。」

朔は少し驚いていた。
引きずっていたのは
・・・自分のほうなのに。

「それで?
 朔ちゃんの気持ちは
 どうなんだよ?」

「いや・・
 うーん・・・
 ・・・好き・・・
 ・・・・だよ。」

そういいながら真っ赤になる
朔を見て公ちゃんは
クスクスと笑っていた。

「だけどさ・・・
 あのさ・・・

 わかんないんだよ。

 恋人がいるかもしれない
 陽和に対して,
 アプローチしても
 いいのかどうか・・・。」

「うーん・・・
 あのさあ・・・。」

公ちゃんは半ば
呆れ顔で朔に言った。

「とりあえず,ひーちゃんに
 聞いてみたらどうなの?
 単刀直入に。
 『恋人はいるのか?』って。」

「あ・・あ・・
 そ・・・そうなんだけどさあ・・。

 それって。イコール告白じゃない?」

「え?
 そうか?
 ・・・うーん・・・まあ,
 そうだとして,
 何か不都合?」

「え?」

公ちゃんのいうことは,
的を射ていた。
その通りだ。
告白して不都合なことなんて
一つもない。

「そ・・・そうだな・・・。」

「呆れた・・・。

 ホント・・朔ちゃんって
 こと恋愛のこと・・というか
 ひーちゃんのことになると
 とたんに不器用になるな。」

「・・・・。」

恥ずかしい気持ちと
なんとなく情けない気持ちで
朔は二の句を次げずにいた。

「でさあ,俺に頼み事は
 なんなわけ?」

「あ・・・それなんだけど・・。

 陽和をさ,食事に誘ったんだけど。」

「うんうん!」

「・・・二人きりで行く勇気が
 なくて・・・
 その・・『公ちゃんたちと
 一緒に』って・・・

 言っちゃったんだけど・・。」

「はあ?」

公ちゃんはさらに呆れて
朔のほうを向いた。

「朔ちゃん・・・あのねえ。
 二人で行かないと意味ないでしょ?」

「いや・・だけどさあ・・
 最初からじゃ警戒するだろうし。
 それに・・俺も
 緊張するし・・・。」

「はあ・・・。
 まあ,いいや。
 でも,俺はひーちゃんの
 連絡先は知らないよ?」

「あ・・そうだよなあ。」

「うーん・・・。

 あ,美咲ならわかるかもしれない。」


そういって公ちゃんは,
隣の部屋の佑里香に
声をかけた。

佑里香と美咲そして
陽和は高校の時の同級生だった。

佑里香は美咲に連絡を取り,
美咲・朔・由宇・公ちゃんそして
陽和の5人で食事に行くことに
決まった。