学生卒業以降
恋愛をしたことない
という人は結構いる。
仕事を覚えるのに
必死で,とても
それどころじゃなかった・・・とか。

それは芽衣子自身
そうだったからよくわかる。

それに,保育士という
職業上,そうそう出会いも
多くはない。

男性の保育士も増えてきた
とはいえ,やはり,
女性の多い職場。

出逢いは求めないと
なかなか生まれない。

だけど,陽和のは
そういうことでは
ないみたいだ。

「出会いがないってこと?」

「・・・うーん・・・
 どう・・・なんでしょうか。
 正直なところ,
 告白されたことも
 ・・結構ありますし,
 探せばチャンスは
 無かったわけではないと
 思います。」

「そうよね。
 陽和ちゃんくらい可愛くて
 まっすぐで性格も
 可愛らしいなら
 多分惹かれる人も
 多いだろうし。」

「・・・いえ・・
 そんなこともないんですけど
 でも・・たぶん
 ゼロじゃなかったんです。
 きっと,そういう機会。

 だけど,私から
 拒絶してしまったの
 かもしれないです。」

そういって下を向く
陽和には
何か理由があるんだと
芽衣子は感じていた。

「何か,思うところが
 あるんでしょ?

 言っちゃいなさいよ。
 すっきりするって。」

芽衣子は,
陽和のことを心配する
気持ちが8割,
好奇心が2割といった
面持ちで陽和に
そう言った。

「小学校の時に
 ずっと好きだった人が
 いたんです。」

陽和は1年生のころに
朔に出会ったことや
3年生のころの
出来事を芽衣子に話した。

「ふーん。
 すごいわね,その彼。
 よっぽど陽和ちゃんのことが
 好きでたまらなかったのね。」

「え?」

陽和はそんな風に言われると
思ってもみなくて
びっくりしていた。

あの時の・・・
手の甲へのキスは
自分の中ではなんだか
背徳感を感じる出来事で・・・

大人になってからなら
大したことないことなのかも
しれないけれど

そのときの陽和には
天地をひっくり返すような
驚きの出来事だった。

朔はきっと衝動的に
そんなことをしたの
だろうと思って
誰かに言うさえを
憚られる出来事だった。

だけど,初めて
第三者に話した今,
その第三者である
芽衣子の反応は
陽和が思ったのとは
少し違うものだった。

「え・・・そう・・
 なんですかね?」

朔が陽和のことを
好きでそんな行動に
出たのだ・・・
なんて。

よく考えれば
そうに違いないのだけれど
陽和にはそんな考えが
思い浮かびもしなかったのだ。

「じゃあ,朔ちゃんは
 あのころからずっと
 私のことを・・・?」

陽和はぼそっとつぶやいた。

「ずっとって?」

「あ・・・ええ・・。」

陽和は朔との
その後の出来事を
ポツリポツリと
話し始めた。