「お待たせいたしました」




──その声色の微かな聞き覚えに、それまでずっと俯いていた私は思わずぱっと顔を上げた。




「アボカドシュリンプサラダです」





爽やかな笑みを顔に浮かべたウェイター。やや明るめな金髪のわきで、銀色のピアスがキラリと光った。




「……」

「ご注文の品は以上でお揃いですか?」




普段ならそのチャラチャラした出で立ちに顔をしかめていただろう私は、彼の顔立ちから感じた強烈な面影に、完全に活動を停止した。




「…お客様?」




彼が首を傾げたのにも頓着せずに、私は懐かしさと共に沸き上がってきた彼の名前を、絞り出すように声に出した。





「──界人?」

「え、は、ハイ。そうですが──」





その表情は、怪訝と言えば怪訝。ただ不信感と言うよりは、「どこかで会っただろうか?」という程度のものだった。





「あ、あのぉ、スミマセン……」




やばい、覚えてないぞ、どうしよう。と言うような、ちょっと焦った感じの表情は、昔の界人とちっとも変わっていなくって。




「…ふ、ふふっ!」




少し派手めなルックスの彼の仕草が、あの頃の界人と奇妙なほど重なって、私は思わず吹き出してしまった。




「……え、あの」

「私。覚えてない?」





彼が私を覚えていないことに、怒りも、悲しみも、全くありはしなかった。





ただただ私が落ち込んで、何の考えも無しに、ふらっと立ち寄ったファミレスで、彼がバイトをしていたなんていうとんでもない偶然の方が到底信じられなくて。





奇跡みたいで、すごく、すごく、嬉しかったのだ。




「私だって。美和。遠野美和」

「ミワ……?」




私の名前を聞いてもまだピンときていないらしい彼の様子には、さすがにムッとしたけれど。





「……美和?」

「そう、美和」





「……あ、あ!美和って!美和!?」

「おっそ!」





「うわぁ!美和!!」

「ヒトの名前連呼するな」





ようやく私に気付いたそのリアクションが満点だったので、そのあたりには目を瞑ることにした。




これが今から2年前。界人と再会を果たしたのが、2年前のまさにこの4人席。奇跡にも似たその事件は、2年経っても私の胸をざわざわと騒がせる。