「お済みの皿、お下げしても?」




イケメンを絵に描いたようなバイト君が、爽やかな笑顔で私に尋ねてきた。




「あぁ。どうぞ」

「『界人』さんって、ここでバイトしてたヒトですよね」




私の目の前の皿をすっと持ち上げて、バイト君が口を開く。「前島」とかかれた名札が持っているお盆に触れてカチャリと音をたてた。




「興味ある?」

「そうですね。店長の話によく出てくるし。なによりこんなトコでバイトするなんてよっぽど変わった人じゃないかと」




そう言って、前島君は「はは」と笑った。




彼と普通に話すのは、今日が初めてだった。今年から入ってきたバイトの子で、地元の大学生らしいのだけど。




「キミと同じ雰囲気だったよ、だいたい」

「男前だったってコトですか」

「うーん、どうだろうなァ」

「ツッコんで下さいよ、恥ずかしいんで」





こういう話しやすさや、人懐っこい部分は、なんとなくあの時の界人に似ている気がした。




「店長の好みかも。サボっても怒らなそうな子を採用してるとか」

「俺は怒りますけどね。バイト先が潰れちゃたまりませんから」




前島君はそう言うとクルリときびすを返した。




「界人さん来たら、俺にも教えて下さいね」





こちらを振り向いてパチン!とウインクをすると、前島君は厨房の奥へスタスタと歩いて行った。





「…イケメンだねぇ」




その背中を頬杖をついて眺めながら、私はコーヒーをず…とすすって、再び机の上の携帯に目をやった。





界人からの連絡は、まだ来ない。