世界の終わりがやって来たみたいな顔で電車に揺られる私は、ふと車窓から見えた街並みの光に誘われて。




会社の最寄り駅から二つ目の「桜塚」という駅で何の気なしに降車した。




このあたりでは桜の名所で知られる「桜塚」。駅前の大通りには、数百メートルにわたって大きなソメイヨシノが100本単位で立ち並んでいる。




春先には花見の客でごった返すこの街も、7月となれば桜の花はとっくの昔に散り果てて、当然ながら人の往来は少ない。




──ただ、だからこそ、電車の窓ごしに伝わったその街の静かな雰囲気に、その街の優しげな光に、沈みきった私の心はどうしようもなく惹かれたのかもしれない。





青々と葉を茂らせる並木道を当てもなく歩いていると、大通り沿いに、少しマイナーなファミリーレストランのチェーン店が建っていた。





「……おなか、減ったな」





少し古びた印象を受けたそのファミリーレストラン、店頭の年季の入っていそうな看板には、黒い鉄板に乗ったハンバーグの写真が美味しそうな湯気を上げて写っていた。




いくら落ち込んでも、どれだけふさぎ込んでも、お腹ってのは減るものだ。




腹が減ってはなんとやらと言うけれど、さらに言ってしまえば“食事も喉を通らないほどには落ち込んでいない”ということだろうか。




「甘いなぁ──私は」





まとわりつくような暑さが鬱陶しい真夏の夜。自らに向けた嘲りとともに、私はそのファミリーレストランに足を踏み入れた。