国重界人は、2つ下の幼なじみ。





小さくて弱っちい、泣き虫な界人。





7年ぶりに会った界人は、まぶしくて、キラキラしてて、逆に私の弱さが浮き彫りになるのが複雑で。





けれどもそんな界人は、こんな私を「すごい」と言い。





私はそんな界人の素直な思いに、涙を流した。





…どっちが泣き虫か、分かりゃしない。






「界人」

「んー?」





真っ暗な視界の中、「ロウソクがあったはず」と部屋中をガサガサ漁っている界人を呼ぶ。





「なんかさ、曲弾いてよ」

「え、今?」





「うん」

「ていうか、ロウソクは?」





「どうせ寝るだけだし、もういいよ」

「確かに」





数メートル先の正面でうごめいていた界人の黒い影が、私の横までのしのしと移動してくる。





「エレキしかないけど、大丈夫かなぁ」





ソファの横のスタンドに立て掛けてあるギターをガタガタと引っ張りながら、界人がぼやいた。





「どういうこと?」

「ホラ。雨がすごいでしょ。エレキってアンプ通さないと大きい音出せないわけ」





滝のような雨音が、もう随分続いている。時刻は1時を回っているから、かれこれ2時間以上だ。





「──隣座りなよ」

「うェっ!?」





私がわざとあっけらかんとした口調でそう言うと、界人は見事に予想通りのリアクションをした。





界人は本当に、からかいがいがある。





「ハハ。何、イヤなの?」

「イ、イヤじゃないけど」





「今更恥ずかしがることないでしょ。彼女でもいるなら黙っといてあげるから」

「イッ…!イナイ、イナイ!」





「あのバンドの可愛い子は?」

「え、あ、リルハ?リルハは別のバンドの人と付き合ってる」





「じゃあ安心ね。ホラ、さっさと来る」

「え、ちょっ…美和!?」





私は手さぐりで界人のジャージの裾を掴み、少し強めにぐいっと引っ張った。





…半ば諦めたように、私の隣に界人が腰を下ろす。コタツの一辺に2人だと、さすがに小狭い。





「雨の日は良い曲ができるって言ってたじゃん」

「そんなすぐ思い付くとは言ってないよ…」





腕と腕がぴったりくっつく程の距離で、界人が「もう…」とため息をつく。闇の中で、ギターがカチャリと音を鳴らした。





「作りかけの曲は、聴かせちゃいけない約束なんだけど」

「何それ。『klang』の掟みたいな?」





「そう。でも今日は特別ね。元々美和に作った曲だし」

「えっ」





──私が聞き返した時に、そこには既に「国重界人」は居なかった。





ビーン、ジャーン、と、コードを押さえながら曲を口ずさむのは、スターバンド「klang」のギタリスト、「kaito」。





顔が見えない分、その変化は顕著だった。まるで突然、隣の人が別の人物と入れ替わった感じ。





「kaito」はそのまま1分程ギターの音色を確かめるようにかき鳴らすと、ほんの一瞬界人に戻って──。





「じゃあ、いきます」





と、そう言った。