「でも、よくそんな事覚えてたよね、昔の界人」

「あー。そりゃあね。俺は美和のお説教、全部覚えてるよ」






事も無げに言ってみせた界人の得意顔を、思わず見上げた。






「え?俺そんな変なこと言った?」

「全部は言い過ぎでしょ、さすがに」





私が口を尖らせて反論すると、界人はクスリと微笑んで、右手の人差し指をピンと立てた。





「『弱っちい界人なんて嫌い』、『負けてるくせに笑ってる界人はもっと嫌い』。そう言われたのは幼稚園の年中の時。年長の時は、『降りられないのに木に登るな』。小学校の時はたくさんあるよ。『辛いことがあったら秘密基地へ』、『掃除はサボるな』、『ポスター作りの手伝いは3日前までに言え』。『転んだくらいで泣くな』。『消しゴムはいつも2コ筆箱に入れておけ』。えーっと、あとは──」

「分かった。ごめん、私が悪かった…」





…自分の暴君ぶりが、よく分かる。





なんとまぁ、そんな細々(コマゴマ)した説教を、子供の時分から続けてきて来られたものだ。当然のごとく、恥ずかしさで顔が赤くなる。





「いやぁ、まぁ、言われてしょうがないヤツだったしね、俺もさ」





界人は笑って、懐かしそうにもう一度コーヒーカップをスプーンでくるりとかき混ぜると、残ったコーヒーをくいっと飲み干した。






「それにしたって多すぎるよ…何がしたかったんだ、私は…」

「ハハハ。面倒見の良さは子供の時からずっとだよね、美和って」

「バカにしてるでしょ…」

「まさか!してない、してない」





界人のフォローも効果なし。私は恥ずかしさと軽い自己嫌悪で、ゴツンと力なく頭をコタツの机にぶつけた。