しばらくすると、ジャージ姿の界人がリビングへ戻って来た。





「おかえり。コーヒー淹れといたよ」

「え、ホント?やった!」





子供のような笑顔を見せて、界人はコタツを挟んで私の向かいに腰を下ろした。





「雨、やまないね」





私が声をかけると、界人はコーヒーをすすりながら、こちらに目をやる。





「雨の日、嫌い?美和は」

「うーん、そりゃあ、晴れの方が好きかな」

「そうかぁ」





にこにこ笑いながら、界人は窓の外に顔を向けた。





「界人は好きなの?雨の日」

「そうだなァ…好きっちゃ好き。でも苦手」

「何それ。なんか微妙な返事」





私の問いかけで一度こちらを向いた界人は、今度はコーヒーカップに目を落とす。






「バンドのことで悩むのは、決まって雨の日だから。でも、いい曲が出来るのも決まって雨の日」





柄に音符のついたティースプーンでカップをくるくるかき混ぜる界人を、私は黙って見つめた。





「だから、微妙。正直ね」





苦笑する界人のその表情は、最近では一度も見たことがなかった。どちらかと言えば遠い昔、まだ小さくて弱っちかった頃の彼の、助けたくなるような泣き顔に、少し似ていた。