たくさんの若者たちの心を奪って離さないスターバンド「klang」。





そのギタリスト「kaito」。





今ドアを2枚隔てた向こうで呑気にシャワーを浴びている「界人」が「ソレ」だという。





なんだか、現実感が一向に湧いてこない。けれども、証拠だけは山程残っているわけで。





「…私、バレたら殺される?」





謎の恐怖が突然湧き立つ。





「kaito」の下宿先に押しかけて、「kaito」の部屋のシャワーを借り、「kaito」のスウェットを堂々と着て、「kaito」と同じ部屋で寝て。けれども「klang」のファンではない。





「あぁ。死ぬなぁ、コレは」





妙に納得して呟いたセリフに、自分で笑ってしまう。





そう。笑い話なのだ。あの泣き虫で、臆病で、弱っちかった界人が、ライブハウスのスーパースター。界人のファンなんかに、殺されてしまうかもしれない、なんてことが、既に私の中では冗談であり。





私にしか感じることのできない天地ほどのギャップが、私に心地よい笑いを誘うのだった。





「すごいなぁ──界人は」