さっきまでの沈んだ感情はとうに収まって、私の興味は再び界人の部屋に注がれる。





雑多な部屋の中に所狭しと存在している、界人の音楽への情熱のカケラ、そして、界人の頑張りの証。





例えば、本棚の上に置いてある写真立てがそうだ。





ブリキ製の幾何学的なフレームに収まった、彼の写真は計3枚。





3枚とも、背景は同じだ。夜の街並み、キラキラ光るお店の入口。大きなギターのバッグを背負った界人と、界人と同い年くらいの男の子が2人。その3人の傍(カタワ)らに、なんとも魅惑的な表情を湛えた、小柄なショートカットの女の子。





そして、彼らの周りに、数十人の若者たち。





多分、界人のバンド「klang」のメンバーと、そのファンたちだ。





──なるほど、と思う。





私自身、界人の活躍は店長からしか聞いたことがなかったのだけれど、この写真を見れば誰にだって「klang」の活躍の程は推し量れる。





メンバーと思しき男の子2人は、界人よりも背が高くて、1人は黒の短髪、1人は茶髪のボウズ頭。





そして二人共、とびっきりの男前だった。





黒髪の彼はどの写真の中でも界人と肩を組んで、カメラに向かって中指を立て、不敵に笑っている。界人をギラギラの金髪にしたのは多分彼だ。





茶髪のボウズ君は2人とは対照的に寡黙な印象。タバコの煙を燻(クユ)らせて、いつでもカメラからむすっと目を逸らして仏頂面をしている。だけどそれは決して嫌そうではなくて、単にカメラで撮られるのが恥ずかしいって感じ。





界人は界人で、どの写真でも金髪と銀のピアスを光らせて、子犬のような無邪気な笑顔で写っている。





そして、全部の写真でセンターを飾っていたのは、ショートカットの女の子。3枚の写真のうち、1枚は黒髪の彼と、1枚は茶髪のボウズ君と、1枚は界人と腕をがっちり組んで、カメラを挑発的に睨みつけている。





──それは絶妙なバランスで、かつ芸術的なコントラストで。それぞれの彼らの写真に私は目を奪われた。





曲を聴いてもいないのに、「klang」は私の心を強く揺さぶり、そして掴んだ。それほどのスター性が、彼らにはあった。





今界人は、どれだけうきうきしながら曲を作っているのだろう。それを想像するだけで、界人の立場にちょっと立ってみるだけで、私の胸まで激しく高鳴る。