外の寒さをまるごと忘れさせてくれるような温かいお湯が全身を流れ、雨音とのユニゾンがかえって心地よくもあった。





「……」





芯まで冷え切った身体が徐々に温まっていくのを感じるこの時間は、とても好きだ。





手のひらに落ちる水滴を眺めながら考えるのは、界人のこと。そして、自分のこと。





──界人と接すると、自分の嫌な部分が分かりやすく浮き彫りになって、少し怖かった。




それはいつもほんの一瞬の感覚なのだけど、確かに抱く負の感情。




「それに比べて、私は──」




そんな風に、思ってしまう。





圧倒的に、私は自信がないのだ。






界人の頑張りを見るたびに、自分を省みて、嫌になって、考えるのをやめる。





その繰り返しが、界人と再会してからの私の日常だった。





おっちょこちょいだけど、真面目で、愚直で、ひたむきで。





誠実で、優しくて、素直で。





──かっこよくて、頑張っていて、すごくて。






界人は、眩しすぎる。





「……」





眩しすぎる界人が、私に無償の笑顔を容赦なく注ぐのだ。





自分の弱さが、甘さが、汚さが、余すところなく照らされて。





たまらなく居心地が悪くなる。





界人に微笑んで貰えるような人間では、私はないのに、と。





そんな風に、卑屈になってしまう。





「性格悪いなぁ、私」





無数の水粒が項垂(ウナダ)れた私の頭をさらさらと流れて、髪を伝って肩に落ちる。身体が温まっていくのとは裏腹に、頭は妙に冷えていく。





「…ていうか、何やってんだ、私」





不意に、自らの愚行に意識が行って、さらに気分がどんより沈む。界人の明日の予定だって分からないのに、勝手に家に押しかけて。





同棲してるカノジョでもいたら、どうするつもりだったんだ、私は。





「まぁ──そんなワケないか。界人だし」





こんな具合に思考を止めるのも、日常茶飯事になってきたのだけれど、それを気に留めるでもない私は、「さっさと上がって替わってやるか」といった調子で鼻歌交じりに身体を洗い、シャワールームを後にした。




これは私の悪い所でもあるのだけれど、良い所でないとも言い切れない。




界人への飽くなき信頼は、界人の私への信頼と表裏だった。




それだけの時間を過ごしてきた自信が私にはあり、だからこそ、界人に対して何かしらの負の感情を一瞬でも感じてしまう自分が、たまらなく嫌だった。




つまり、この時の私はそんな自分が嫌で、嫌で。湧き上がった感情を徹底的にごまかして、切り上げて、なかったことにしてしまっていた、そんな情けない時期だったのだけど。





それを根本から取り払ってくれたのも、やっぱり界人だったことを思うと、あぁ、なんて恥ずかしい一人相撲だったのだろうと、今思い出しても顔が上気する。