雨のザァザァと降りしきる、12月、深夜。







雪じゃないだけまだマシだと思えるけれど、それでも冷える。とても冷える。







界人と他愛ない世間話を交わしながら、あのファミレスから傘一本で徒歩15分。







豪雨の勢いは未だその激しさを保ったまま。ビー玉サイズの雨粒が前方の視界を埋め尽くし、時折遠くで稲妻が光っては、虎の鳴き声のような雷鳴がゴロゴロとお腹の辺りに響いてくる。






「いつまでかかってんだあのバカは…」






氷のように冷たくなった両手をゴシゴシとすり合わせながら、軒下の小綺麗な白い壁に寄りかかっている私は、その壁の向こうでせっせと片付けをしているらしい幼なじみに悪態をついた。







「ごめん美和!おまたせ!」

「おっそい!」







バタンと乱暴に私の真横の扉が開かれ、慌て顔の界人が飛び出してきた。








「ご、ごめん!片付けしたりコーヒー淹れたりしてたら思ったより時間くっちゃって」

「コーヒー淹れる時間あったら私を中に入れろ!」








これなのだ。界人は基本のんびり屋。それを無理やり急がせると、逆に時間がかかったりする。








だからあえて彼を急がせまいと「リビングだけ1回片付けたら声かけて」と言っただけで、それ以上は彼に任せていたのだけど。







まさか急いで慌ててテンパった挙句、美味しいコーヒーを淹れるとは。







色々と一周二周、三周くらい周った結果、随分面白い冗談だった。








「ご、ごめんなさい…」







加えて、しゅん…と枯れたススキのように頭を下げる界人に、それ以上怒る気なんて全く起きてこないワケで。






「…いいよいいよ。いきなり押しかけたのは私なんだから」







目の覚めるような彼の金髪にポンと手をおいて、私は界人の奇行を笑って不問とした。







これだって、本来怒られるべきなのは天気予報も確認せずに傘を持ってこず、タクシー代をケチって幼なじみの家に押しかけた私であるはずなのだけど。






やはり私は当時相当な甘ちゃんで。






「界人なら大丈夫」
「界人なら断らない」





と。






界人にただ甘えるだけの、お姉さんぶったただの子供だったのだ。






そんな私の無意識の期待を全て丸ごと受け入れる界人の優しさなんてのは、親の愛にまるで気付かないちびっ子のように、子供だった私には見えるべくもなく。





こうやって思い出して初めて、その偉大さを私に痛感させる。