「いらっしゃい、遠野(トオノ)さん」





と、エプロンを付けた30代前半くらいの見た目をした男性店員が、コーヒーカップを2つ持って、私の前に現れた。





「夕飯時にこの客入りって、ヤバくないですか」

「そう思うならもっと来て欲しいんだけどね」





場をわきまえない私の物言いに、彼は苦笑しながら私の前の席に腰かけ、2つのコーヒーカップを机にコトンコトンと置いていく。





彼はこのファミレスの店長。



だからって、こんなあからさまなサボりがまかり通るとは、世も末だ。





「頼むメニューもサラダとドリンクバーって。肉食いなさい、肉」

「ほっといて下さい。お金無いんですから」



「またまた。貯金ばっかしてると婚期逃すよ」

「セクハラです」

「おっと失礼。今のは忘れて」





罪の意識のカケラもなさそうな表情で、店長は自分用に取ってきたらしいコーヒーをずず…と美味しそうにすすった。






「…店長がそんなんだから流行んないんですよ、ココ」

「店で一番偉いのは俺なの。これも俺のコーヒーなの。フランチャイズなんて知ったことかい」

「ハァ、そうですか」





店長は見た目は若々しいけれど、実際のところ40歳を優に越えているはず。それでこの言動、このフランクさ。一国一城の主は、なるほど性格もどこか王様じみている。