7年ぶりに界人と再会してから、私はしばしば週末になるとそのファミレスに足を運んだ。





金曜の夜だというのにまばらなお客さん。そんな寂れたファミレスでウエイターをしている界人は夜9時を過ぎると相当暇になるらしく、よく私の向かいの席に座って来ては、他愛ない世間話や昔話に花を咲かせた。





「でさ、その時美和がさぁ、『起きろ!』っつって!俺もうビックリして飛び起きて!『え?朝!?ポスター!お、終わってる!』みたいな!」

「あんた悪いと思ってないでしょ」




「お、思ってる思ってる!それ以上に感謝がすごかった!」

「『ごめん』の前に『やっぱ美和すごい!』だったもんね」





「『まず寝たことを謝れ!』ってめちゃくちゃ怒られたけどね」

「当たり前でしょうが」






界人の声は二十歳過ぎの男性にしては、やや高くって、子供っぽい。でもその分、普通の男の子とは違って、澄んだ秋晴れ空のような、耳に心地よい、優しい声色だった。




何かを話すたびに表情がころころ変わる界人は見ていて飽きがこない上に、金髪にピアスというかなりの風貌の変わりようなのに、中身がほとんど昔の界人のまま。しゃべり方が時折7年前の彼と重なって、そのたびに強烈な懐かしさが私の感覚中枢をくすぐるように刺激した。





毎日の仕事がいやになっていた私からしたら、この週末のひとときは当時ひとつの楽しみで。





大学3年生のバンドマン、ライブハウスのスター的な存在。加えて実際悩みの無さそうな界人の溌剌とした雰囲気には、僅かな羨望を感じながらも何度も勇気づけられていたものだった。





けれども、その感情はあくまで「そこ」で終わっていて。





界人は弟みたいな、幼なじみ。





そんな心持ちが、まるでタンスに貼られたキャラクターシールみたいな塩梅で、私の脳にこびり付いていた。





子供の頃にただなんとなく貼り付けたシールは、何年かして「あっ」と思っても、なかなか剥がせるもんじゃない。無理やり剥がしても、痕が残ってしまう。





界人は7年経ってすこぶるいい男になったけど、「あっ」と思って“年下の幼なじみ”っていう肩書きを、すっと剥がすには年月が経ちすぎた。





無理やり剥がしたって、痕が残る。





じゃあ、貼ったままでいいじゃん。





貼ったまま、そのタンスを眺めて、「懐かしいな」って思っているだけで、





当時の私は十分過ぎるほど、救われていたのだ。