界人が実は、「バンド」というシロモノに相当熱を入れていることと、界人の所属する『klang』というバンドがその界隈では結構な人気を誇っているという事実を知ったのは、私が4回目にそのファミレスに来た時だった。





「界人はホラ、あんまり自慢するタイプじゃないでしょ?」





私の向かいに座った店長が、界人が作業をしているであろう後方の厨房を親指でクイッと差して、ニコリと笑う。





「ところがどっこい。『klang』といえば、この辺だったらどのライブハウスだって満員にしちゃうくらいには名が知れてる」

「…店長、仕事は?」

「界人ひとりで回るから大丈夫」





店長のサボり癖が露呈するのに、そう時間はかからなかった。私が週末の夜に来店すると、店長は必ずと言っていいほど店の奥の喫煙席でドリンクバーのコーヒーを美味しそうに飲んでいる。





それを咎める気は別になかった。だって店長の言うとおり、私を含めてたった二組のお客さん。バイトの店員がひとりいれば十分どころか十二分。ふたり店員がいれば必ずひとりは暇になるのだ。





こんな状況でよくもまぁ店が潰れないもんだとは思うけど、この店の持っているちょっと古めかしい雰囲気と、流れてる有線の選曲センスは、好きな人には堪らない娯楽だろうとも思った。





お客さん自体は多くなくても、リピーターが多いのだ、多分。






「そんな人気バンドのギタリストが、こんな辺鄙(ヘンピ)なとこでバイトでしょ。時給も別に高くもないのに、なんでだろうって思って。ちょっと前に聞いてみたワケ」





店長も昔音楽をやっていたらしくて、地元のライブハウスに今もちょこちょこ顔を出すのだとか。その関係で、界人のことは「『klang』のギタリスト」として知っていたのだという。





「そしたらなんて言ったと思う?『ここでバイトしたら良いフレーズが次々思い浮かぶ気がして』だって!ハハハ!なんかむず痒くってさぁ!昔の怖いものナシだった悪ガキの頃を思い出してね」





大笑いしながら界人の事を話す店長は、本当に楽しそうで。その口調にまるで手の掛かるやんちゃな弟を持った元ヤンの兄みたいな、1周回った優しさを感じた。





「最初界人を見たときは、ちょっとひ弱そうな印象を受けたんだけど…とても芯が強い。譲っちゃいけないトコを、絶対譲らない。譲っちゃいけないコトがあるって、ちゃんと知ってる。優しさの中に頑固な自分を持ってる。それが演奏に出てるんだよね。だから彼のギターはすごく、魅力的なんだ」





店長は、人間としての界人とギタリストとしての界人、その両方をいっぺんに褒めていた。




「音は心、心は音」というのか。私には縁遠い話ではあるけど、人柄が演奏にでるのだと、店長は力説していた。演奏の魅力は、そのまま演奏者の魅力である、と。





──全然知らない人の話を聞いてるみたいで──





だけど、妙に納得する部分があって。






それはなんだろうと記憶を探っているうちに、その記憶は遠い昔、小学生の頃まで遡り、懐かしさと共に過去の思い出がふっと脳裏に浮かんだ。