「バンド?バンドって、あのバンド?」

「そう」





界人の異様な外見の変わりよう。その由来は驚くほどあっけないものだった。






「まずは見た目から入らなきゃってことになって」

「安直…」





悪態をついてはみたものの、心の中では安心している自分がいた。





「やっぱ似合ってないよね。大学歩いてても落ち着かない」





気恥ずかしそうに随分明るい金髪を触る界人の姿に、かつての面影をはっきりと捉えたからだ。




「いいんじゃない?カッコいいよ」

「ほ、ホント?良かったぁ」




無邪気な笑顔は界人の特徴で、持ち味で、魅力なのだ。それは見た目がちょっとパンクになったくらいじゃ変わらない。





「高1の時、ギター始めてさ。最初は見よう見まねで、それこそ遊びみたいな感じで。だけどだんだんそれじゃあ足りなくなってきて。大学入ってから思い切ってバンド組んでみたんだ」

「大学のサークルで?」





「イヤ、最初はそうだったんだけど、今はまた別の人たちと」

「へぇ…」





界人の大学には軽音楽サークルなるものがあり、界人も最初はそこに所属して、バンドを組んでいたらしいのだけど。





なにやらメンバーとウマが合わなかったらしく、2年の春にバンドは解散。今はサークルを離れて別の大学の人たちとバンドを組んでいるという。





「それにしてもずいぶん思い切ったね。その髪、そのピアス」

「メンバーに無理やりさせられちゃって。店長がそのへんラフで助かった」





「普通ならクビだよ、ソレ」

「『若さの特権だよ、大事にしなさい』だって」





「何それ、オヤジくさい」

「俺も思ったけど許してもらう手前黙っといた」





屈託ない笑顔が、かつての弱っちい界人を思い出させる。





だけど、今の彼の笑顔には弱さなど微塵も感じない。むしろ元々持っていた無邪気さに春風のような爽やかさが加わって、昔よりずっと大人っぽくなった。





中2で界人が引っ越すまでは、私の方が背もあった。界人を「見上げた」のは、今日が初めて。





男性的な魅力が増したのは間違いなくって、彼の少しエッジの利いた見た目がやや偏った層にしか受けないであろうことが勿体なくすら思えた。




内気で弱っちかった界人がバンドマンだなんて、私にとってはまるっきりピンとこない話なんだけど、今の溌剌とした界人にはなかなか似合ったホビーだな、と。




そんな風に、私は思った。