界人は、引っ越した県外の街で中2、中3と高校時代を過ごした後、両親と離れ「桜塚」駅にほど近い地元の大学に通っていた。




このファミレスは界人の下宿先にも近く、生活費の足しにするためバイトをしていたらしい。




「家も学校も近いし、店長はいい人だし、賄いは出るし、接客も学べるし。良いことずくめなんだよ。時給は普通だけどね」




私の前に座って、界人はドリンクバーから取ってきたメロンソーダに口をつけつつ、饒舌に語る。




「仕事はいいの?」

「店長に言ったら休憩くれた」





言われてから私は店内を見回し、ようやく気付いた。




私と入れ替わりに家族連れが一組退店してから、新しい入店はなかったらしい。週末の夜だというのに、お客さんは私を含めてたった3組だった。




「店員ひとりで十分回っちゃうんだよね、このお店」




苦笑をにじませて、界人が言う。





「でも、雰囲気いいよね」

「あ!分かる?俺もこのお店の感じすごく好きでさ!一目惚れしちゃったんだ」





「で、無理やりバイトさせてもらってるってこと?」

「平たく言うとそんな感じ」

「ふぅん…」




相槌を打ちながら、界人の顔をまじまじと見た。




7年前の面影が残っているのは、目元と、口元。




丸みのあったあご周りは大人っぽく引き締まったけれど、明るい金髪とピアスを差し引くとまだ幼さがわずかに残ってる。




それは大きな瞳と長い睫毛が醸し出す雰囲気か、笑ったときにくっきり頬に浮かぶえくぼが昔の界人を思い出させるせいか。




「ん、どうかした?」

「あ、イヤ、別に」




何度見ても、それは間違いなく界人本人で。だけど、見た目はかなり違ってて。なんだか不思議な気分になる。





「あ、この髪とかピアスとか?」

「……まぁ、それもだし。久しぶりだから当たり前だけど」





──大人になった界人を見るのは、なんだか気恥ずかしい自分がいた。





「俺も最初気付かなかったからね」

「そんなに変わったかな、私も」




「うーん、気付いたあとは『変わらないな』って思ったけど」

「そういうモノなのかな」




「あ、でも、『変わっても美和だな』って思った」

「何それ、意味分かんない」

「ハハハ。俺も」





界人の言葉に内心、かなり納得していた。




変わっても、界人は界人のままだった。




意味は分からないのに、確かにそうだ、と思ってしまう。




7年経って、界人の言葉には不思議な説得力が宿っていた。




「変わった」と言うよりは、もっとポジティブな感じ。




界人は7年で「成長した」のだと、この時初めて私は気付いた。