赤面症男子の憂鬱




そして、あっという間に私たちは駅に着いた。


もともとそんなに距離はないけど、やっぱり雨だと普段よりは長く感じるかな。


馬曽くんが傘を畳むと、自然と距離の近さが顕になり、自分は随分大胆な事をしてしまったんだなあと思う。




ふと、馬曽くんに目をやる。

いくら照れ屋さんとはいえ、背も高いし顔もかっこいいし、ものすごく男の子らしい。


今更意識するなんて、私は馬鹿かもしれない。

そもそも男の子の傘に入れてもらうなんて、緊急事態とはいえはしたないし……。




「えへへ、今日はごめんね……」

照れ笑いを浮かべながら謝ると、馬曽くんは静かに『べつに』と答えた。





さて、電車に乗れば後は最寄りからお家まで。

駅でビニール傘を買ってしまえば完璧だ。

とはいえ、500円はかなりの痛手なんだけど。



「あ、馬曽くん今日はありがとうね
私コンビニ寄るからそれじゃ……」

別れを告げようとしたその時。



「待っ……
あのさ、俺ん家駅の目の前だから
これ、使って」

再び差し出された傘。

「……い、いいの?」

正直、貴重なお小遣いは使いたくなかった。

本当ならものすごくありがたい。


「助かるよ!
私、何かお礼しなくちゃ……」


「い、いいから
それに龍崎さんになら、他の奴もこうすると思うし……」


「え?」


「っ……ちが……今の、なし
じゃあね」


一方的に話終え、私の手に傘を押し付ける馬曽くん。

そのまま彼は早足に改札を抜けていった。




……どこまでもお世話になってしまった。

ここまで恩を受けてばっかりだといたたまれない気もする。



(それにしても……ふふ、優しかったな馬曽くん)

もっと話してみたいし、仲良くなってみたい、自然にそう思えた。


渡された傘の柄には、まだほんのりと体温が残っていて……

さっきまで一緒にいた事を物語っていた。




そのあと電車に揺られているあいだも私は、次学校で会ったらどうやってお礼を言おうかとか、そんなことを考えていた。