「えっと、馬曽くんって何部だっけ?」
歩きながら、当たり障りの無い質問を選んで聞いてみる。
同じクラスなのに、そう言えば知らないから。
運動部の男子たちと良く話してるみたいだし、馬曽くんも運動部かな?
「バスケ、だけど」
蚊の鳴くような声で、ポツリと返す馬曽くん。
思いっきり私と逆の方向向いているし、会話を続ける気はまるでゼロ。
とはいえ、ずーっと無言というのも気まずいし。
私はなんとか言葉を続ける。
「ま、馬曽くん背大きいし運動神経良さそうだよね」
「……先輩に比べたらそんなに大きくない、けど」
やっぱりバスケ部は背が高い人が多いというのは本当らしい。
馬曽くんでさえ180近くあるように見える。
私はそんなに背が無いから、目線が彼の肩くらい。
そのぶん下から表情が見れるのだけど。
それにしても、さっきから距離が近くてなんだか照れる。
肩がぴったり触れている状態でずっと一緒なんて、さすがに意識せざるを得ない。
もしかして、馬曽くんもそれで緊張しちゃってるのかもしれない。
(うん、ちょっとくらい濡れても構わないから少し離れてあげよう)
私は馬曽くんと少し距離を置いてみた。
肩の一部に大粒の雨がかかってしまうが、それくらいは仕方ないだろう。
これで少しはマシかな、と思いまた少し進むと……
なんと、ずっと黙っていた馬曽くんか自分から口を開いた。
「……あのさ」
酷く遠慮がちな声のかけ方。
私は極力明るくしようと、優しいトーンで答えた。
「ん?なにかな」
「話すの、下手でごめん……
俺あんま女子と話さない、から」
私は唖然としてしまう。
まさか、そんなことを謝ってくるとは思わなかったから。
やっぱり馬曽くんって可愛い気がする。
優しいし、素直だし。
ちょっとくらい無口だって、全然マイナスにならないと思った。
「そんなの全然気にしなくていいよ!
物静かなのって、良い個性だと思うな
それに馬曽くん、優しいから」
無言で感じ悪いのとは違うし、クールとか明るいとか人それぞれだと思う。
すると、馬曽くんは再び恥ずかしそうに空いてる手で顔を隠した。
そして、『ゔーーー……』と唸るように俯く。
「龍崎さん、褒め、すぎ……だから」
(あ、初めて名前呼ばれた)
「だって本当だよ?
雨の中女の子に傘を差し出すなんて、並の男の子じゃ出来ないな〜かっこいいな〜」
少し茶化すようにはにかみながらそう言うと、馬曽くんは更に赤くなってしまう。
「やめ、て……そういうの、俺死ぬ……」
死ぬっていうのは流石に大袈裟だけど。
でも、女の子たちは良く馬曽くんがカッコイイとか言ってる気がする。
本人の前で言ったらきっと馬曽くん倒れちゃうかも、なんて考えたらちょっと面白い。
『馬曽くんって恥ずかしがり屋なんだね』、と言おうとしたその時。
馬曽くんは突然ぱたりと足を止める。
「?」
どうしたんだろう、と首を傾げる私。
すると、焦ったように彼はこう言った。
「龍崎さん、濡れてる
ごめん、気付かなかった……」
そう言って、馬曽くんはぐいっと私の方に傘を寄せた。
同時に、自然と距離が縮まり……顔が近づく。
咄嗟に見せられた男らしさに、ドキッとしてしまった。
「だ、大丈夫だよこれくらい?
それにあんまり近いとほら、馬曽くんが困るだろうし……」
「……っ
平気、だから」
ぷいっと顔をそらされ、最初に歩き出したのと同じ距離感に戻る。
(びっくり、した……)
