「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまう。
まさか、あんまり話したことの無い馬曽くんが、こんなふうに助けようとしてくれるなんて思わなかったから。
「いいの?
あれ、でも馬曽くんは?
傘一本しかないみたいだけど」
馬曽くんの手元にある傘は、どう見ても差し出されている一本だけだ。
不思議に思って聞いてみると、馬曽くんは『しまった』と言わんばかりに動揺してみせた。
『あ……』とか『え……』とか、必死に言葉を探している。
もしかして、自分は濡れるつもりで貸そうとしてくれたんだろうか?
もしそうなら、すごく優しい。
思わず笑みが溢れてしまった。
「ふふ、一本しか無いなら大丈夫だよ
馬曽くんって優しいんだね」
その一言が良くなかったみたい。
馬曽くんはまるで雷に撃たれたかのように動きを止めてしまった。
そして、その顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
恥ずかしそうに手で顔を覆っていて、湯気でも出そうな勢いだ。
どうやら彼はかなりの恥ずかしがり屋らしい。
「や、優しくない、から……」
顔を逸らし、眼鏡の位置を指でくいっと直す姿に、不覚にも可愛いと思ってしまう。
それにしても、せっかくの親切心を断ってしまったのは本当に申し訳ない。
貸してもらえるのはありがたいけど、それで彼が濡れネズミになってしまったら元も子もない。
(うーん、どうしたものか。)