【澪side】



(どうしよう……)

授業も終わり、HR。

私は憂鬱な気持ちで窓の外を眺め、1つ大きなため息を吐いた。


今日は雨、それもどしゃ降りだ。



(あーあ……
ちゃんと天気予報見ておけば良かったな)


傘を持ってくるのを忘れた私は、どうやって帰ろうか悩んでいるわけで。

仲の良い子に限って、自宅は学校の近所。
電車通学の私とは逆方向だ。






「ーーーじゃあ今日は雨だから寄り道しないで帰ってね」

担任の先生がそう言うと、日直の子が号令をかけ、皆が思い思いに動き出す。



本当に困ってしまった。

特に用事もなく、今日は委員会も部活も無いし……。



あ、そうそう、私『龍崎 澪』は風紀委員の副委員長をしています。

あとは特に目立ったことはしていないかな……?


普段から真面目にしてると自分では思っているのに、全く持って運命と言うものは意地悪だ。



私は教室を足早に出ると、玄関の下駄箱に寄りかかりながら、ぼーっと雨粒が地面に落ちるのを眺める。


(テスト前だし、早く帰りたかったのになーー……)



雨は弱まりそうにない。

走って帰るにせよ、駅までは5分ほどある。


そうして、どうにか濡れずに帰る手段を考え……10分ほど正面玄関をうろうろしていたその時。




ふと、視線を感じる。

振り向くと、そこに居たのは同じクラスの馬曽柚彦くん。


話したことは1、2回くらいしかない。

とても無口で、女嫌いだとかそんな噂が立っている彼は、同時に女の子から密かに人気を得ている。

背が高く、黒縁眼鏡の似合うクールな雰囲気が人気の理由だろう。


彼は何かモノ言いたげに私の方を何度か見ていた。


(どうしたんだろ……?)



何も言わないのも気まずいので、私はとりあえず声をかけてみた。



「雨、凄いねー」

そう言って困ったように笑うと、馬曽くんは驚いたような顔をした。

慌てているのか、明らかに不自然に視線を泳がせる。


やっぱり、女の子と話すの苦手なんだな……と改めて感じた。


でも数秒後、馬曽くんは控えめな声で話し始めた。



「か、さ……無いの……?」

途切れ途切れのその言葉。
どうやら緊張しているみたい。


「うん、忘れちゃって困ってるの」


雨は一向に止む気配が無いし、皆すぐに帰ってしまったのか玄関にはあまり人も見えない。

そろそろ腹をくくって濡れるしかないと思っていたところだ。



すると



「……俺の、貸すけど」


視線は明らかに私の方を見ていないけど、馬曽くんは手に持っていた黒い傘を私にずいっと差し出して来た。