思えば私は、いつからこんなに礼生さんのことを想ってたんだろう。
最初は、頼三さんに似た雰囲気のお孫さんで、声が似てて、その声で名前を呼んでもらえる日を期待しながら、出勤してた筈なのに。

優しい言葉使いでお客さんと話してたり、笑ってたり、合間合間に真剣に本を読んでたりする姿を見てるうちに、少しづつ、頼三さんとは別の人なんだなぁ…と思うようになった。

一人暮らし始めて、隣同士に暮らし始めて、知らなかった彼の素顔も、副業も知って……
イヤになるくらい忙しくて、自分の時間も持てないくらい働かされてたのに……


仕事も、部屋も、変わりたい…とは思えなかった。
むしろ、いろんな事を知る度に、(少しでも助けになりたい…)と思うようになってーーー


(……ああ…そうか……きっと、その頃からずっと…礼生さんのこと好きだったんだ……)


部屋に引っ張り込まれた初日。
きれいに手を合わす礼生さんの姿を見て、胸が『きゅん…』とした。
あんなテキトーな物しか作れなかったのに、それにきちんと手を合わすあの人は、

(食べることを大事にしてるんだろうな…)

…って思えた。

そんな人と一緒になるのが夢だったから、私はずっと、あの家の家事を手伝ってたんだ……。


(…いつか…礼生さんと一緒に暮らしたいと望んでたから……?)

目を上げて、いつまで開かないシャッターに違和感を覚え始めてた。
時間はとっくに過ぎてる。
こんなこと……今まではない……。