カウンターに戻ってきたアイツは、ボンヤリとした表情をしていた。
赤く目を腫らして、小さい目を更に小さくして、唇を尖らせていた。

(…さっきといい、今といい、一体どうしたって言うんだ。急に泣き出すとか、今までにはそんなこと、なかったのに…)

名前を呼んだ時だけだよな…と思いながらカウンターの方を見る。
わざとこっちを向かないヤツの横顔を眺め、まるで怒ってるようだと思った。

(…なんだ?俺が何かしたか?)

ヘンな言い方しただろうか…と振り返った。
ただ単純に、妹が来ても迷惑じゃないと言っただけだが…。


(それがマズかったか…?)

アイツはアイツなりに、これまで自分の時間をこっちに合わせて生活してた。
それなのに、俺が「妹が来ても迷惑じゃない」と言ったもんだから、もしかしてつまらなくなって泣いたとか……?

(…それはねえな…)

ソッコー結論づけた。
アイツに限って、そんな事はないって気がした。

(…だって迷惑そうにしてたのは、あっちだしな…)

自分の時間を削られて、困ったようにしてた時もあった。

そんなヤツがつまらない…なんて思う筈がない。

(バカバカしい…もう考えんのやめた!)

分かりにくい女心に、呑気に付き合ってられるか。
そんな暇があるなら、ネームの一つでも考える。



ーーーこの所、スランプだった。
アイデアが浮かばなくて下絵が進んでなかった。
だから、アシ達が退屈する。
そいつらの相手をしてくれる妹は、都合のいい遊び相手だった。