恋する時間を私に下さい

ギュッと頬っぺたつねられた。
眠ってた人の目が開く。

「…勝手に人の顔を覗くな!」

暴言によろめく。
今日もやっぱり、怖い方の緒方さんだ…。

「す…すみません…挨拶したのに姿が見えなかったもんですから…」

離された頬っぺたを左手で覆う。
包帯の感触がする。
その手を緒方さんが見た。


「…医者……なんて?」

改まって確認。
そう言えば、昨日はショックで報告もしてなかった。

「…1週間水に浸けないように…と言われました…」

遅れまして…は、今更いいか。

「そうか…じゃあ今日もカウンター業務に専念して」


「………はい…」

返事が遅れてしまったのは、立ち上がろうとした緒方さんがよろついてしまったから。
慌てて手を出しかけてやめる。
昨日と同じように、拒否されてもヤダから。

「…開館時間だな」

腕時計で時間を確かめる。
歩き出そうとした一歩目、ふらっ…となってぶつかった。

ドンッ!

(あっ…!)

倒れそうになって、背中が棚にぶつかる。
思ってたよりも勢いがついてたせいで、棚の方がグラついた。

「危なっ…!」

緒方さんが慌てて本を押さえる。
目の前にネクタイの結び目。
一昨日のキッチンよりも更に近い距離。

…ドキンッ!

心臓が動いたのかと思うくらい驚いた。
つけてるローションの香りがする。
ドキドキと鳴りだす胸。
まるで耳鳴りみたいに響いてる。