奥ではペンを走らせたり、紙を切る音がしてる。
さっきのコーヒーを要求する声からして、アラシさん達が来てるんだ…と分かった。

泣き出しそうになるのを我慢して、キッチンを出る。

廊下の隅に立ってるルナに、「頼むわね…」と呟いてドアを閉めた。


パタン…と閉まったドアは重くて冷たくて、まるで緒方さんのようだと思ってしまった…。


そのドアに背中をつけながら、今日まで自分が築き上げてきたものは一体何だったろう…?と考えた。

いきなりドアの中に引っ張り込まれて、緒方さんの顔色を伺いながら、望むように必死でやってきた事は全てムダだったんだろうか…?

(私じゃなくても良かった…てこと?…それとも、ルナの方がいい…てこと?)


……何も言わずに仕事に逃げた緒方さんを、初めて憎らしい…と思った。
散々こき使われてきた自分の時間を返して欲しい…と思うくらい歯がゆくて、ギリッ…と奥歯が鳴った。


(もう二度と……手伝ったりなんかしない…!)


優しい言葉も恋する時間もいらない。

私は『OーGATA図書館』の司書として、館長さんの隣に、たまたま住むことになっただけ。

何も見なかった。
何も知らない。

緒方さんのことなんて。



(もう……どうでもいい……)