……ジイさんに似てる声だと言われだしたのは、高校生くらいからだ。
声変わりした後で、親戚含め、親にまで言われるようになった。

…ジイさんのことは嫌いじゃなかった。
話好きで、本の知識も幅広くて、文学だけじゃなく、漫画のこともよく分かってたから。


『漫画家になりたいんだ!』

幼い頃からの夢を、一番応援してくれた人だった。
漫画で大成できなかった時のことを考えて、俺のために図書館まで残してくれた人だ。


ーーそんなジイさんのことを好きだった女ーーー


(『リリィさん』…か…)

オンナ好きなジイさんのことだ。名前で呼ぶのなんか、お手の物だったろう。
きっと、こいつだけでなく、他のオンナのことも名前で呼んでたに違いない。

……でも、目の前にいる奴にとっては、自分一人のような気がしてたはず。

(…それなら、本当の事を教えてやった方がいいんじゃないのか…⁉︎ )

ちらっと頭をかすめた。

…でも、どこか無粋な気がしてやめた。

(俺がこいつのことを名前で呼ばなきゃいいんだ。…ジイさんと混同されたくなんかねぇからな…)


…意地みたいなものがそこにはあった。
『友坂百合』のことをなんと呼べばいいのか、考え始めた頃のことだ。


ーーーーーーー

「……別に疲れてなんかいないよ」

図書館内では俺は、別人の顔を見せてる。
キザで、人当たりが良くて、いかにも善人ヅラをして。
ジイさんの顔を潰さないように、必死でオモテの顔を続けてる。