駅前からタクシーに乗り込んだ。
レトロビルに着いたのは、それから30分くらい後。

階段を駆け上がりながら、ずっと胸が痛かった。
頭からコウヤさんの寂しそうな顔が消えずにいて、ずっと苦しい気持ちが続いてた。

最上階の部屋へ続くドアを開けて、靴を脱ぎました。
脇に設置されてるシューズラックの中に礼生さんの靴を見つけ、隣に置いてみた。

並んだ靴の踵を見つめる。
きゅん…と胸の鳴る音がして、その足で部屋へ向かった。

キィキィ…と軋む廊下の音が響いてる。
その音が止んだのは、彼の部屋の前に着いた時……

黒い鍵を手にしたまま、暫く悩みました。


ーーこんな時間に私が訪ねてきたら、礼生さんはきっと驚く。
勘違いもしてしまうかもしれない。
(それでもいいの…?)と、自分に問いかけた。

ドキドキする胸の音を聞きながら、それでもいい…と、鍵を差し込みました。

(今はただ…礼生さんに会いたい……!)


それだけを考えて鍵を回した。
左に回して、カチャリ…と開く音を確認した。
90度戻してから、鍵を抜く。

ドアノブに手をかけ、ぎゅっと力を入れて握り、押しながら中へと開く。

洋館仕立てのこの建物のドアは、全てが内開きで、その理由は『welcome(我が家へようこそ)』の意味があるからだそうだ。

……中へ入り、ドアの鍵を閉めた。
昼間に作ったハヤシライスの香りが、ほんのり残って漂ってました。