礼生さんの部屋にあった第二の『OーGATA図書館』の意味は、なかなか聞く機会がありませんでした。
初めてあの部屋に伺った日、運悪く、修羅場に入ったばかりだったから。


「えっ?……引っ越し?」
「はい…いつしたんですか⁉︎ 」

今朝、マンションの部屋に帰って驚いた。
いつの間にか、隣が全くの別人になってて…。

「いつって言うか…ココは元々住んでた所だし……」

意味不明な礼生さんの言葉に首を傾げた。
ビクビクしながら私たちの会話を聞くアシさん達の手前、辛うじて感情を押さえ込みました。

「もう少し、分かるように説明してもらえませんか?元からココに住んでたって、どういう意味ですか⁉︎ 」

あのマンションに越してきた時、既に礼生さんは隣にいたよね⁉︎
挨拶に伺った私をこれ幸いとばかりに部屋に引っ張り込んで、散々、こき使ってきたような気がするんだけど……

「あのマンションは、ただの仕事部屋として借りてただけ。…本当はココが俺の住処。つまり、所有物ってわけ」
「所有物…?」
「そ。つまり、俺がこのレトロビルのオーナーってこと」

ハヤシライスを食べきり、礼生さんはいつものように手を合わせた。
「お粗末さま…」と声に出し、自分のお皿のルゥを掬いかけて手が止まった。

(今、なんて言った⁉︎ …ビルのオーナーとかなんとか…言ってなかった……?)

スプーンを置いて彼を見ました。
切れ長の眼差しが、眼鏡の奥から覗いてました。