「…全くもう……あの子は本当に頑固で仕方ないわね……」

お母さんは呆れたようにドアの方を見てた。
昨日退院してきたばかりのお姉ちゃんは、朝一番に自分のマンションへ帰ってしまった。

「あんな怖い目にあったのに、平気なのかしら…」

私なら暫く無理…と話すお母さんには、何も分かってないらしい。


お姉ちゃんが急ぐ理由ーー。
顔を見せなくなったレイさんと、少しでも早く会いたがってること……。




「えっ⁉︎ 引っ越してたの⁉︎ 」
「うん。正確には、元から住んでた場所に戻っただけなんだけど…」

電話してきたお姉ちゃんの話は意外なものだった。
マンションに帰るとレイさんは引っ越した後で、今は図書館のあるレトロビルの最上階に住んでるそうだ。


「仕事する部屋が狭いからって言うので、あのマンションに移り住んでたらしいの。でも、もうその必要もなくなったからって…」

アシスタントのコウヤさんが騒動を起こして、アシの人数が一人減った。
それで、自宅と仕事場が向かい合わせの方が、体力的にもラクだと思ったんだとか。

「…じゃあお姉ちゃんはどうするの⁉︎ レイさんトコに同居するの⁉︎ 」

ゴホッ!と大きな咳が聞こえた。
ビックリしたみたいで、ゲホゲホ言いながら返事があった。

「な…なんでそうなるのよ!…そんなことする訳ないじゃない!」

いきなり変なこと言わないでよ…だって。奥手すぎでしょ。