初めてレイの部屋に行ったのは、それから二週間くらい後ーーー

駅前通りのレトロビルにある最上階の部屋で、男五人が黙々と漫画を描いてた。


「新しい助っ人だぞ!」

小太りで背の高い加藤と言う担当から声をかけられた奴は、下ろしてた目をこちらに向けた。
緩いくせ毛が印象的で、細っぽい身体の奴だった。

「…ヨロシク頼む」

四角い眼鏡の奥から俺を捉えた。
青白い顔に見えたのは、きっと奴が寝不足だったからだろう。

…パッと見、色気のある男だと思った。
以前見た新人賞に出てきたマンガの主人公にも似てる気がする。

細いアゴに薄い唇。鼻はスッと細くて先が丸い。目は奥二重で切れ長で、瞳は深い茶色をしてた。


「こっちこそ」

ライバル心みたいなものが燃え上がった。今思えば、くだらねぇ思い出だけど。



……レイの生原稿を見たのは、その日が初めてだった。
ペン入れとベタとホワイトが済んで、消しゴムのかけられたものが俺の手元にやってきた。

「背景とカット頼む」

言葉少なく言われた。
どこをどんなふうに描いたらいいのか、イメージだけの指示があった。

「…感じたままに描いてくれたらいいから。質さえ落とさなければ…」

厄介な仕事だな……というのが、その時の俺の正直な気持ち。

その頃は、既に漫画から手を引いてたけど、初めて見るプロの原稿に、生唾を呑む思いだった。