ブブーッ!とNOクラクションのようなブザーが鳴り響いた。
ドンドン!とドアを叩く音がして、アラシさんの声が聞こえてきた。


「緒方さん!仮眠時間終わりですよ!」

チッ!…と舌打ちする音がして、頬を包んでた手は離れていった。

「悪い…今、手が離せねぇから…」

スタスタ…と怒ったように玄関へ向かって歩き出す。
部屋に取り残されそうになった私は、慌てて彼の後を追いかけた。

ドアノブに手をかける礼生さんが振り向いた。
それに合わせて立ち止まる私に気づいて、後方を指さした。


「お前がするべき仕事はあそこだろ?」

振り向いた先に見えるパインカラーのシステムキッチン。
それを見つめ直して、彼の方へ向きを変えた。

「今日はビーフシチューな!ハヤシライスでもいいぞ!」
「えっ…⁉︎ 」

真夏なのに…⁉︎
なんて言葉は、この人には関係なかった。

「量は多めにな!お前の分も入れろよ!」

呆れ返る私を尻目に部屋を出て行こうとする。
何も聞けずにいた私が見送ろうとした時、彼はいきなり戻ってきた。

「忘れもの…」

小さな声が聞こえて近寄った。
軽く触れた唇は音を立て、私の口から離れていった。


「じゃ、よろしく!」


ウインクしながら部屋を出てく。
その後ろ姿を見たまま、鉄砲玉をくらった鳩のように目を丸くした。