(…譲る気もねぇくせによく言うよ…)

鼻でせせら笑った気がする。
その後、大学を卒業して、まともに就活もしないでいる俺を父はよく叱った……。


『働く気はないのか⁉︎ 』

バイト三昧で、暇させあれば漫画を描いてる。
実家暮らしで甘えられるからだ…と言われ、一人暮らしをさせられた。

家賃、光熱費も自分で払えと突き放された。
うるさい家族のいない場所は、俺にとって、『天国』みたいなものだった。


(これで家事をやってくれる女がいればサイコーなんだけどなぁ…)

料理も掃除も好きじゃなかった。
漫画を描いてばかりいるせいで、女性と出会う機会もない。



「……そんなので一体、どんなマンガを描いてたんですか⁉︎ 」

目の前にいるヤツに口を挟まれた。
思い出話に聞き入ってるのかと思ったら違ってた。

「レイさんは、子供の頃から漫画家になるのが夢だったんですよね⁉︎ それなのに、どうして自分の幅を広げようとしなかったんですか⁉︎ 」

人を見る目が養えなかったのは、そのせいだと言われてるみたいだった。

「マンガを描くのに、実体験も必要だったでしょ⁉︎ …そんな時はどうしてたんです⁉︎ 」

興味本位な聞き方と違う。どこか納得のいかない感じがする。
その彼女の尖った唇を見つめながら、そんな時はどうしてただろう…?と頭をひねった。


「……本から拾ってた気がするなぁ……」

懐かしい気持ちで、ジイさんが開いた図書館内のことを思い出してた。