『…なかなか……時間が取れなくて……』

困ったように返事する私を責めもせず、ニコニコと笑ってる。


『礼生が君に迷惑をかけてるね…』

何もかも知ってるような言葉を言った。
ちらっと寝室にいる彼のことを気にしながら、『いいえ』と首を横に振った。

『迷惑なんてかけてません。私が礼生さんを助けてただけなんです。頼りにしてもらって…有難いくらいです…』


美人でもなければ、社交的でもない私を『OーGATA図書館』の司書として雇ってくれた。
不器用な優しさで、私のこともちゃんと考えてくれた。

彼の漫画を支える一員として、大事にしてくれた。
言葉は乱暴だったけど、その中には温もりがあった…。


『…礼生さんには…感謝してもし足りないくらいなんです…』


優しい笑顔を見せてくれた。
言い出そうにも、言葉が出ないみたいで、じぃっと顔を見つめられた。


離そうとした手を握ってくれた。
その手の温もりに、返って戸惑った。



……一生分の幸せを、そこでもらった気がした。

だから、後のことはどうでも良かった……。





『…館長さん……私を迎えに来たんでしょう……?』


シュッ!と切れる刃物の音を耳にした。
一瞬シビれて、何が切れたか分からなかったけど……



……痛い……と思った。
目の前にいる礼生さんが、驚いた顔してる。
どこもケガしてないみたいで、心からほっ…とした…。


(守れたんだ……)