「うわあっ」

 それを予期せず空を見上げていたメロンが、大慌てで首を引っ込める。
 怖い!
 怖くて怖くて体の震えが止まらなかった。

「ぼくたち……きっと食べられてしまうんだ! 空から手が伸びてきて……逃げられないぼくたちを捕まえて、食べちゃうんだよ‼ いちご、どうしよう! ぼくたち逃げられないよ‼」

 迫り来る恐怖に、ただただ怯えるしかなかった。

「ママーッ! 来てー‼ わたし寂しいよ……怖いよ! こんなところもういやーッ」

 不意に立ち上がったいちごが空へ叫ぶ。この場へ駆けつけてはくれない母を呼ぶ。声の限り。
 そんな時。

 ポツ。
 ポツン―。

「………?」

 最初は鼻の頭に、顔に、次々と上から何かが当たり始める感触に、メロンも上を見上げる。
 空から冷たく小さい粒がいくつもいくつも降ってくる。それはメロンの体だけ当たるのではなく、いちごの体にも当たっていた。
 そう、雨だ。
 やがて雨脚は強くなり、小さな体を叩き潰すかのように降り出した。まだ生まれて間もない小さな命を危険にさらすほどの強い雨。この雨は二匹に酷な運命を与えるのだろうか……? この世に生まれてきた喜びも知らぬままに、天は命を奪うのだろうか。
 明るい茶色の毛の上を滑っていた滴も、今やそれは毛の中にしみ込んで、少しずつ体温を奪っていた。

「ママーァ! 寒い、寒いよぉっ!」

 いちごが叫び続ける。けれどいくら叫んだところで母からの返事はない。その声も雨音に消されて遠くまで届かない。

「ママーッ!」

 いてもたってもいられなくなったメロンも叫ぶ。
 早く、ママに会いたい。
 兄弟たちに会いたい。
 これがもし悪い夢なら早く覚めて、と。

「ママーッ!」

「ママーッ」

 二匹は叫び続ける。
 ただ、無心に母の名を。
 会えることだけを信じて。

 無常にも雨は激しく振り続けた……。