子犬物語。

 あの猫がやられちゃったら……? またぼくも痛い思いをすることになるの……?
 そんなのいやだよ。もう痛い思いなんてしたくない!
 ……だったら。
 だったら今の内に逃げちゃったほうがいいのかも。
 夢中で戦ってるんだもん、ぼくがいなくなっても、きっと、気付かない。
 でも……ぼくを助けてくれたひと(猫)が負けそうだからって、見捨てて逃げるの?
 それで本当にいいの?
 メロンは自分自身に問う。
 自分とは全く無関係の猫。襲われているぼくを知らん振りして見過ごすこともできたのに、わざわざ助けてくれた。体を張って。 
 それをぼくが見ない振りして、逃げてもいいの?

 ううん……やっぱり、そんなのよくないよ。
 このままこの場で逃げ出したらぼくはこの先一生後悔する。
 ぼくは逃げない!
 弱いぼくにはなにもすることができないけれど、ここにいるよっ!
 だから……だから、頑張って!

 首の痛さや恐れを忘れてただひたすら祈る気持ちでいっぱいだった。
 しかし、野犬のほうが圧倒的有利なのはかわらず、メロンの祈りは届かないようにも見えた……。

「終わったな」

 猫の最期を短く告げ、喉の奥でいやらしく笑う野犬。と、そこで苦しいはずの猫が不敵に笑った。

「……どうかな?」

「なにっ!?」

 この状況で何故笑えるのだ? 動揺を隠せない野犬に、猫は自由な両前足を伸ばしその鼻面に向かって鋭い爪を繰り出した。

「ぎゃんっ‼」

 予期せぬ出来事に叫びを上げ、飛びのく。 急所の一つである鼻を攻撃され、激しい痛みに鼻面を押さえる。その顔は驚愕と痛みに歪められていた。
 自由になった猫が素早く起き上がる。じたばたと転がり苦しむそれを飛び越え、俊敏な動作でメロンの前に降り立つ。

「あ、あの、ありがと……」

 胸をドキドキさせながら慌ててお礼をいう。目の前で一気に形成逆転をさせた猫の動きに感動すら覚えていた。