子犬物語。

 メロンを背後にかばう猫と、野犬のにらみ合いは続いていた。

「………」

「……フゥゥゥ!」

 先に動いたのは猫で、鋭く弧を描く爪を伸ばし、それを野犬の顔をめがけて繰り出す!
 猫科独特の素早い動き。一歩後れを取った野犬の顔に皮膚を切り裂く確かな手ごたえ。その爪あとからはジワリ、血が流れ始める。

「やったな……」

 口元に流れてくる自らの血をぺロリひと舐めする。その目は猫ごときにやられたという屈辱に、さらに凶悪化した。一層重心を低く構えると、大きな口をあけて飛び掛る。

「危ないっ」

 2匹の壮絶な戦いを見ていたメロンが叫ぶ。攻撃をかわそうとした猫が地面に足を取られて体制を崩したのだ。その隙を突いた野犬の牙が首元に襲い掛かる。太くとがった牙が食らいつき、身動きをとらせないよう力任せに地面に押し倒す。

「どうやら俺さまのほうが一枚上手だったようだな」

 首をくわえ込んだまま勝ち誇ったような笑みを浮かべ、猫の腹を前足で乱暴に踏みつけた。

「………!」

 苦痛に顔を歪める猫に、メロンはどうすることも出来ずにその場を動けないでいた。それはまるで金縛りにでもあったいたいに。
 ぼくを助けてくれたひと(猫)……負けてしまうんじゃないかな。
 ただ見ているしかできないメロンのほうが弱気になっていた。
 ひょろっとした体型の猫に、飢えて体はがりがりでも、その倍以上も大きい野犬。その存在だけでどこか威圧感があり、凶悪だった。
 勝つ見込みなんてあるんだろうか?