「あー、死にたい」



となりに座る彼は、きょうも、ポツリとそれをつぶやいた。

息をするかのように。
瞬きをするかのように。

それが、さもなんでもないかのように。



「また、それ?」


そして私もまた、そんな彼に、ため息を吐くようにこたえるのだ。

彼と同じように淡々と。 いや、彼のとはまた少し違うかもしれない。

だけど、それでも驚いたりなんてことはしない。


見ると彼はやっぱり、“死にたい”なんて発言は何でもなかったかのようにぼうっとどこかを見つめていて。


私の聞き間違い?とさえ、思えてくるほどに、通常運転だ。



「ねーえ、聞こえてる?」

「うん、聞こえてた」

「じゃあなんかこたえてよ……独り言みたいで恥ずかしいじゃん」

「んー、そんなこと言われてもなあ」

「(また、カラ返事)」



彼の瞳の先に映るものは、いったいなんなのだろうか。

消えそうで消えない不安定な飛行機雲? それとも、その向こう側でどこまでもどこまでも広がる無限の青空?