『あのね、お母さんがまた夜にね、ひとりで泣いてたの。あの人の……お父さんの名前を呼んで。
伊都くん。古都は、どうしたらいいのかなあ……っ?』


私の父は最低な人だった。

私が小学三年生のときだっただろうか。父の浮気が発覚したのだ。


それまで一見、仲がよかった家庭は崩壊。 その日から父は、人が変わったかのように母や私に暴言を吐いたり手を出すようになった。


その頃の幼い私は激変した父に、ただただ疑問を持つばかりだったけれど、高校生になった今ならよくわかる気がする。

きっとそれまでの優しさや愛情はすべて、私たちを欺くためのものだったのだろう。 バレてしまったからにはもう、その優しさや愛情を母や私に向ける必要なかったのだ。


だって、それらは全部キタナイ父によってつくられたニセモノだったのだから。

ホンモノなんてきっと、なかった。


そして、そんな父に耐え続けて約一年半。やっとのことで、父と母が離婚した。


やっと、離れられる。
やっと、痛い思いをしなくてすむ。

やっと、お母さんが泣いてるのを見なくすむ……!


そう、思っていた。

……それなのに。