7時を目処に歌い始める。最初に歌う曲はいつも同じ。


あたしの声につられて電車から降りてきた仕事帰りのサラリーマンやOL、遊んでる途中の学生さんなんかが徐々にあたしの前に集まってくれる。


その集まりは何かと覗いてくれる人もいる。最初は誰も足を止めてくれなかったのに喜ばしいことだと思う。


嬉しいことに常連の方も何人かいる。不倫してしまってる年若いサラリーマンの村上さん。10年間も片想いを続けてる女子大生の山口さんなどなど。


彼らの為にもあたしは声を張り上げて歌う。時折涙ぐむ山口さんの表情にあたしも胸が熱くなる。



「凛ちゃんって
今恋でもしてるの?」


曲を歌い終えたあたしに山口さんが尋ねる。


「え‥な、なんでですか?」


言い当てられたことといきなりの質問に焦ってどもってしまう。


「最近の凛ちゃんの歌声、前以上に切なくて心に響くんだよね。凛ちゃんの表情も優しいし。」


驚いた。そりゃハルを想いながら歌ってることにはちがいないけど顔まで変わってたとは‥。


「あ‥そんなん照れますよー!!‥うんでも大好きな人はいます。一目惚れなんてしちゃって恥ずかしいけど理由もなく好きなんです。」


「やっぱりー!!いいじゃないの一目惚れでも。好きのカタチなんて沢山あるもの」


そう言って山口さんは微笑んだ。