「日本語お上手ですね」
いつもの軽自動車に乗りながら話をする。

「わあ、うれしい。特訓したのよ」
ジェニファーが少し得意げな顔をした。

「日本人とちょっと付き合ったりもしたし」
「へえ」
「日本の男は、何考えてるかわかんないわ」
ジェニファーが肩をすくめる。

「まあ、そうかも」
翠は頷く。

小さな車内に、不釣り合いなゴージャスさ。颯太もそうだけれど、どうも日本の軽自動車が似合わない人種だ。窮屈そうに首をすくめている。

なんか、チャーリーズエンジェルみたい。

ふっくらとした胸元を強調するように、白いブラウスのボタンは深くまで開けられている。色白の頬に、薄いそばかす。物腰はスマートで、インテリジェンスも感じさせる。

「キャメロン・ディアスに似てますね」
「そう? 日本人は外国人を見ると、みんな同じに見えるんでしょ?」

言われてみると、確かにそうかも。

「私もアジア人は、みんな同じ顔に見えるわ」
ジェニファーはそう言って笑った。

図書館の前に車を止める。

「じゃあ、いってきます」
翠はそう言って扉を開け、片足を道路に下ろした瞬間。

「ねえ」
ジェニファーが呼び止めた。

「はい?」
「本当にソウタは、ここにいる間ずっと図書館の中も外も監視して、ことあるごとにメールしてたの?」
ジェニファーが尋ねる。

「はい」
翠が答えると、ジェニファーがあからさまに顔を歪めた。

「むかつく男ねー。束縛のきつい男なんて、最低」
「はあ」

それは、FBIで決められた警護ルールじゃないの?

「何かあったら、呼んでね。近くに待機してるから」
「はあ」
「あ、そうだ。この辺りで美味しいコーヒー飲ませる店はない?」
ジェニファーはそう言うと、にっこりと笑った。