失敗に終わったが、大きな収穫はあった。

あの指輪のトリックは、ある程度有効だ、ということ。カメラに映らなければ、うまく騙せた可能性があった。

仕事から帰ってきて、ひと段落。リビングのカーペットの上で、翠は一人考え込んでいた。バスルームからは颯太が浴びるシャワーの音が聞こえる。翠は机に肘をついて、眉の間にしっかりとシワを寄せた。

今度こそ、うまく逃げるんだ。

発信機である指輪を他の人にはめたとする。でも他の手段で翠の居場所を知られてしまう。じゃあ、どういたらいいのか。

スマホ。

翠はいつも颯太が肌身離さず持っているスマホを思い出した。ここの警備も、あのスマホで解除する。きっとすべての防犯システムをあそこで管理してるんだ。

スマホに何か細工ができないだろうか。クラッシュするウィルスをインストールするとか。

いい方法にも思うけれど、いかんせん翠にそんな知識はない。

じゃあ、物理的に壊すかな……。

そう考えて、翠はにんまりと笑った。ちらっとバスルームを見る。さすがに、シャワーを浴びる時まで、スマホを持ってはいないだろう。今は脱衣所に置かれているはず。

翠はそっと立ち上がった。

泥棒のようにこっそりと、足音を立てずに歩く。リビングから狭い廊下に出て、すぐ左手のバスルームの扉に耳を当てた。

まだ、水音がする。

翠はゆっくりと、バスルームの引き戸を開けた。鍵はかかってない。意外と呑気な野郎だ。

空調がきかず蒸し暑く、湿度の高い脱衣所。翠は這うように忍び込んだ。洗濯カゴを除くと、颯太の脱ぎ捨てたワイシャツが入っている。

スマホは?

翠は周りを見回し、洗面所の鏡の前についに目的のものを発見した。