「あ、ごめんなさい。声に出ちゃってた」
翠は慌てて口を両手で押さえた。
「なになに〜。悩み事?」
のぞみが好奇心を覗かせて、身を乗り出してきた。
「悩みっていうか……」
翠は言い淀んだ。
第三者の意見も聞いてみたい。
「あのね、男が嘘をつくって、どんなとき?」
翠が尋ねると、のぞみの顔がぱあっと輝いた。
「何? 颯太さん、嘘ついたの?」
「えっと、まあ、どうかな」
翠は困って口ごもった。
「なになに、浮気?」
「……違うと、思う」
「じゃあ、何?」
「私を押し倒したおしたのに、押し倒してないって言う」
自分で言ってて、間抜けな質問だな。
のぞみの顔にあきらかに落胆の色が見えた。
「なんだ、のろけか」
「のろけとも違うんだけど」
「じゃあ、一種のプレイ?」
「そんなんじゃあないの」
のぞみは「もうっ」と腰に手を置いた。
「わけがわかんないよ」
「だよね」
翠はため息をついた。
「でもね、男の嘘は暴いちゃダメよ」
のぞみが言った。
「全部壊れちゃうときもあるから。だからそっとしておいてあげて」
そう言った。

