なんで逃げてるの、私

入り口に着くと、私は待合ベンチに腰掛け、バッグに顔を埋めた。思い浮かぶのは先輩との思い出。

『真央、こっちおいで』

私を抱きしめて

『こんなんもわかんねーの?』

私に勉強を教えてくれて

『ばか』

そう言って私にキスして


思い出せば幸せすぎる日常だった。それは今はなくて。

どうしてだろう
戻れない時ほど強く輝くのはどうして?


『真央』
『真央』

「っ…」
「真央」

私は顔を上げた。

「ぇ…」

そこにいたのは宮澤さんで。

「どうしたのよ、こんなところで」

ぱっと、何かが解き放つ。

「み…みやざわしゃぁ〜〜ん」
「わっ、ちょっと」

私はホッとしたのか宮澤さんに泣きながら抱き着いた。









どのくらい泣いたかな
わからない
あぁ… あの時みたいだね

「…さん……真央さん」

薄っすらと目を開けると私は空き病室のベッドの上にいた。隣にいるのは豪太くん。

「あ、あれ…私…」
「よかった…」

もしかして私
倒れたの……?

「…宮澤さんが、泣き疲れて寝てしまった真央さんの後処理を頼まれたので行ったのはいいですけど…」

そっかそっか…………ん?

「あ、後処理!?」
「…そうです、でも真央さん」

豪太くんが私の頬に手を当てた。

「…なぜ、泣いていたのですか?」

豪太くんの目が真剣になる。

なぜ?
私が泣いていた理由…

「……ははっ、なんだっけ」
「え…?」
「忘れちゃった」

笑って見せた。すると豪太くんはハの字に眉を下げて不安げに見つめる。

「大丈夫、なんでもないから」

頭をクシャクシャに撫で、私は病室から豪太くんを追い出した。

「む、無理しないでくださいね」
「了解」

仕事に戻った豪太くん。少し気持ちが落ち着いた気がする。

豪太くんに心配かけちゃいけない
もうあんな顔させない
私の1番は豪太くんだから

「…私も戻らなきゃ」

私は大きく伸びをして、病室を出た。