「それで、その‥‥‥黒い人影は?」


「わからない」


「!」


隊士はそれを聞いた瞬間、芹沢を優しく床に寝かす。


それから、黒い人影を追おうと地面を蹴る。


まだ間に合うかもしれない。


仇を‥‥‥攻めて顔だけでも見るために。


「だめ」


「っうわっ!」


隊士が少年の横を通りすぎようとした時、少年は隊士の袖を掴んだ。


「何すんだ!?」


「どこに行くの?」


「追うんだよ!まだ‥‥‥まだ、近くにいるかもしれない!」


まくし立てるようにそう言う隊士。


それに対して、少年は緩々と首を振った。


「何でだよ!?」


「行かせられない」


「剣壱!」


「ダメだ!」


「!」


ずっと放心状態だった少年が、大きな声で言った。


行ってはダメだ、と。


「何でだよ!」


隊士は捕まれている腕を振るう。


だが、少年はしっかりと袖を掴んでいて離れることはない。


「何で‥‥‥」


「だって、行ったら、死んじゃう」


「!」


「いなくならないでよぉ」


掴んでいる手に更に力を入れて、少年は下を向きながら言った。


その姿はあまりにも必死そうで。


「死んでほしくないんだ」


「剣壱‥‥‥」


「お願いだよ‥‥‥‥‥



七郎」