八木邸の中に入り、傘をたたむ。
ハァ~髪がずぶ濡れですわ。
肌に張り付く髪を鬱陶しげにはらう。
私は静かに廊下を歩いた。
「にゃ~」
「!?」
不意に聞こえた猫の鳴き声。
黒と白の、どうみても見覚えのある猫。
どうやって来たのか、叶が雨の中をずぶ濡れでお座りをしていた。
しゃがみ込んで、持ち手に布を巻きつけたクナイを取り出す。
クナイを揺らして布を揺らすと、叶が飛びついてきた。
そのまま叶を捕まえ、腕に抱いて立ち上がる。
「本当に、どうしてここにいるんですの?」
「にゃ」
「まぁいいですわ」
叶を背を3回撫で、肩に乗ってもらう。
猫の足跡なんか廊下に残っていたら、疑われるかもしれませんし。
あら?
静かな足音が聞こえ、耳を済ます。
‥‥‥近い。
頭の中で八木邸の地図をインプットして、音のする方向を見つめる。
それほど大きな建物ではないし、物音ならすぐに聞き取れる。
あの方向は‥‥‥
「吉栄‥‥‥!」
不意に聞こえた声。
その声に、私はただただ眉を寄せた。
気配を殺し、見つからないように死角に移動する。
少し顔を出して声のした方を見ると、目的である佐ノ助様と吉栄が出くわしていた。



